
| 英文名 | Philosophy of Science A | |
|---|---|---|
| 科目概要 | 2026年度 前期/2単位 | |
| 授業対象 | 指定なし 月1or月2 | |
| 科目責任者 | 田野尻 哲郎 | |
| 担当者 | 田野尻 哲郎 | |
| 備考 | 科目ナンバリング:L101-HC03/授業形態:講義 |
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近代科学技術・思想は、現代社会に深く浸透してこれを駆動し、国家・人類・自然環境を成立させ、その持続可能性を保証しています。一方、近代科学技術・思想の成果は、ときに私たちに被害をもたらすこともあります。そこで、現代人が科学技術をどのように取り扱うべきかという問題について論じる科学史科学哲学という学問が成立しました。現代社会の一員である私たちは、科学技術をどのように取り扱って現代社会を駆動して国家・人類・自然環境を成立させ、その持続可能性を保っていく必要があります。本講義では、科学哲学の諸問題を通して、私たちにとっての「近代科学技術・思想の使い方」を考えていきます。
第一に、科学史科学哲学の重要な論点を講義で取り上げ、それぞれの論点について理解を深めます。第二に、そうした理解を踏まえて、それぞれの論点についてまず各自で、そしてみんなで思考をめぐらし深めていきます。最後に、論考執筆と発表・議論の場を設け、言語化と自己表現の技術を開発します。
キーワード:実証主義、反証主義、リサーチプログラム、パラダイム、線引き問題、バイオポリティクス、生命科学・医の哲学、宗教と科学・医の哲学
【この授業は全て対面で実施します】
講義は、配付資料・教科書を中心に行いますが、それ以外の内容も取り扱います。スライドショーを利用し、その資料やプリントを配布します。レスポンスシートを毎回実施し、課題ワークを行う場合もあります。必要に応じてビデオを見ます。一方向ではなく、双方向的な講義を行ないます。
【フィードバックの方法】
各種ワークについて講義内で皆で議論をし、次の講義の最初に解説します。
【講義時間外に必要な学習の時間:60時間】
予習:講義前に、教科書(できたら参考書も)の該当箇所を読んでおく。
復習:講義資料やプリントを参考に、再度教科書の該当箇所を読み、科学技術についての問題点をまとめる。
| 回 | 担当者 | 項目 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 1 | 田野尻 哲郎 |
ガイダンス |
講義目標、講義内容、講義方法、評価方法などについて説明します。近代科学技術・思想の問題について誰が・何を思考対象とするべきかについて考えます。 |
| 2 | 田野尻 哲郎 |
科学哲学の基礎:実証主義 |
実証主義は「信頼できる知識は、観察や実験で確かめられる事実(経験)に基づくべきだ」という立場です。目に見えない原理や形而上学的な主張は、検証できない限り科学の土俵に乗りにくいと考え、仮説→測定→再現性で支える思考姿勢がコアです。このうち、論理実証主義について、講義で取り上げます。 |
| 3 | 田野尻 哲郎 |
科学哲学の基礎:反証主義 |
科学技術の実践における反証主義(Falsificationism)とは、カール・ポパーが提唱したように「理論は、正しいと証明するより“間違いだと示せる可能性(反証可能性)”があることが科学の条件」という立場です。これは、検証(検証可能性)に頼るのではなく、「誤りを排除していく過程」こそが科学的知識の発展であり、反証に耐えた仮説が科学的知識として残るという、仮説演繹主義に基づいています。 実験や観測で反例が出れば理論は修正・放棄され、反例に耐えた理論ほど暫定的に信頼されます。理系の研究設計では、“うまく当たるか”だけでなく“外れうるか”を重視して考察します。 |
| 4 | 田野尻 哲郎 |
科学哲学の基礎:デュエム・クワインテーゼとリサーチプログラム |
デュエム・クワインテーゼは、科学的仮説は、それが実験で否定されたときその原因は理論だけでなく補助仮定(測定法・初期条件など)全体にあるため、それ単独では反証できないという指摘です。ラカトシュのリサーチプログラムは、ポパーの反証主義(間違いが一つあればその理論は即廃棄される)への批判から生まれた研究計画論で、核心理論を守りつつ周辺仮説を改良し、予測が増えるなら前進的計画、帳尻合わせなら退行的計画であると評価します。 |
| 5 | 田野尻 哲郎 |
科学哲学の基礎:パラダイム | クーンのパラダイム論は、科学は共有された前提・方法・典型問題の認識枠組み(パラダイム)の下で「通常科学」を進行させるが、例外事例が一定程度蓄積されると、科学の危機を経て、認識枠組み自体が交代する(科学革命・パラダイム転換)と見る立場です。新旧パラダイムは、「通約不可能」、つまり同じ価値判断基準では単純比較できないとされます。科学の進歩を「積み重ね」ではなく「断絶と交代」の歴史として捉える理論です。 |
| 6 | 田野尻 哲郎 |
線引き問題 |
線引き問題(境界設定問題:The Demarcation Problem)とは、「科学と非科学(疑似科学・宗教・占い等)を何で区別するか」という問いです。反証可能性、再現性、検証手続き、理論の修正可能性など候補はありますが、境界は意外とあいまいです。科学技術の現場では、実践的に、“主張より方法”を検討します。2026年現在 では「新・線引き問題 (The New Demarcation Problem)」、単なる「論理的構造」だけでなく、研究者の誠実さや科学者共同体の意思決定、さらには価値判断の妥当性など、社会認識論的な視点から境界を再考する動きが強まっています。科学否定論や気候変動、公衆衛生(ワクチン等)などの社会的課題において、何が信頼に足る科学的知見かを判断する「実用的基準」としての必要性は、依然として高く維持されています。 |
| 7 | 田野尻 哲郎 |
バイオポリティクスの基礎 |
バイオポリティクスは、科学史科学哲学者のフーコーが提示した方法論で、国家や制度が「生命」を対象に人口・健康・衛生・出生・感染症などを管理し、社会を統治する仕組みを分析する方法論・概念です。医療政策や検疫、ワクチン、遺伝情報の扱いは、科学だけでなく権力・倫理・差別の問題も伴います。 |
| 8 | 田野尻 哲郎 |
バイオポリティクスの応用 |
バイオポリティクスの応用とは、生命・いのちとそれを巡る政策や科学技術を「誰が・何を基準に・どこまで管理するか」で読むことです。公衆衛生と感染症対策(パンデミック・ガバナンス)、デジタル・バイオポリティクスと監視社会、超高齢社会への対応(2025年問題)と人口管理、生命工学と倫理的境界などを検討します。 |
| 9 | 田野尻 哲郎 |
生命科学の哲学 |
近現代の生命科学の哲学は、生物学の理論を分析するだけでなく、「生命とは何か」「どう理解し、どこまで操作してよいか」を問います。以下の3論点があります。①還元主義vsシステム論:生命現象は物理・化学へ還元できるのか、相互作用の網から創発(部分の足し算以上の性質)するのか。②実在論vs構成主義:『種』『遺伝子』は自然の境界か、人間の便利な枠組みか。遺伝子決定論を超え、環境・発生・エピジェネティクスも重視。③境界の拡張:植物の認知、人工生命やAI/合成生物を生命と呼ぶ基準、生命情報のデータ化とバイオ資本主義。 |
| 10 | 田野尻 哲郎 |
医の哲学 |
医の哲学(医学哲学)は、医療を「技術」だけでなく、人間の生・死・価値を含む営みとして捉え、前提そのものを問い直す学問です。主な論点は①「病気」とは何か:検査で定義される疾患(disease)なのか、痛みや不安など本人の体験(illness)まで含むのか。②医療の目的:治すだけか、QOL向上、苦痛の緩和、納得できる生き方の支援まで含むのか。③科学と価値判断:エビデンスがあっても、治療選択には患者の価値観や生活背景が入り、両者の統合が課題。つまり、医療倫理が現場のジレンマに原則(自律尊重・無危害・善行・正義)を与えるのに対し、医の哲学は「その原則や概念は何を前提にしているか」を分析します。近年は患者中心医療、予防と社会制度、AI診断・手術で、「医師・医療者とは」「人間的ケアとは」「生命(いのち)とは」が改めて問われています。 |
| 11 | 田野尻 哲郎 |
宗教と科学 |
宗教と科学の関係は「世界をどう説明するか」の認識枠組みの違いとして整理できます。以下の3モデルがしばしば論じられます。①独立モデル(NOMA):科学は「どう起こるか」をデータで扱い、宗教は「なぜ生きるか」など意味・価値を扱うので領域が重ならず基本は住み分け。②衝突モデル:同じ対象をめぐり互いを否定する立場。新無神論は宗教を誤った仮説として批判し、逆に科学的創造論は進化論などを拒みます。ここで「何が科学か」を問う線引き問題が重要。③統合・対話モデル:宇宙の微調整などで科学的説明と宗教的解釈が交差し、科学も「自然に秩序がある」という前提の上に立つのでは、という議論も出ます。換言すると、科学にとって宗教は、科学技術の前提や価値を点検する「鏡」です。 |
| 12 | 田野尻 哲郎 |
科学哲学特殊講義Ⅰ |
科学哲学の文献を読解しながら、その内容について皆で議論をします。 |
| 13 | 田野尻 哲郎 |
科学哲学特殊講義Ⅱ |
科学哲学の文献を読解しながら、その内容について皆で議論をします。 |
| 14 | 田野尻 哲郎 |
解説と討議 |
科学哲学の文献についての質問に答えながら討議をします。 |
| 15 | 田野尻 哲郎 |
まとめ |
これまでの講義の総括をします。 |
科学技術と社会・倫理のつながりについて理解できるようになる。
科学技術の問題点について実感できる。
自分の意見をまとめることができる。
自分の意見を発展させることができる。
多元的な思考ができる。
自己表現ができる。
試験方法:なし 実施時期:
講義において提出してもらう課題ワーク(50%)、最終課題ワーク(50%)、討論参加状況によって成績評価します。なお、欠席は減点となります。
ワークの評価は、課題の内容を理解して自分の考えを提示しているかどうかを基準とします。
この講義では、知識を得ることよりもむしろ、知識をもとに自ら考え、まとめ、表現することが求められます。積極的に講義に参加してもらいたいと思います。講義中にワークをするので、できるだけ休まないようにしてください。
| 種別 | 書名 | 著者・編者 | 発行所 | 定価(円) |
|---|---|---|---|---|
| 教科書 | (未定、配付資料で代替する可能性あり) | |||
| 参考書 | 科学哲学への招待 | 野家啓一 | 筑摩書房 | 1,320円 |
| 参考書 | 科学哲学の冒険――サイエンスの目的と方法をさぐる | 戸田山和久 | NHK出版 | 1,760円 |
| 参考書 | 哲学がわかる 科学哲学 新版 | サミール・オカーシャ | 岩波書店 | 2,200円 |
| 参考書 | 疑似科学と科学の哲学 | 伊勢田哲治 | 名古屋大学出版会 | 3,080円 |
| 参考書 | はじめての科学哲学 | 八木沢敬 | 岩波書店 | 2,420円 |
| 参考書 | 技術者倫理の世界〈第3版〉 | 藤本温他 | 森北出版 | 2,052円 |
| 参考書 | はじめての工学倫理〈第3版〉 | 齊藤了文・坂下浩司編 | 昭和堂 | 1,512円 |
| 参考書 | 理系のための科学技術者倫理 | 直江清隆、盛永審一郎、大石敏広、他 | 丸善 | 2,592円 |